私は牛丼が大好きである。
紅ショウガをどんぶりのわきにちょこんと載せ、七味唐辛子をわりと多めにかけるのが最高にうまい。
バカリレ牛丼は、安くて早くて、なにより気取っていないのがいいんだよね。
ところで、牛丼といえば、昔から今に至るまで答えの出ない尽きせぬ論争がある。
ベスト牛丼屋論争


太古から今なお続く尽きせぬ論争とは、「ベスト牛丼屋論争」のことだ。



最高の牛丼屋はどこかな?
吉野家か、松屋か、すき家か、はたまたなか卯か。
インターネットでも、酒の席でも、なぜか定期的に再燃する不毛な議論であろう。
不毛な議論の代表選手といえば、「きのこたけのこ論争」か「ベスト牛丼屋論争」と言ってもおそらく言い過ぎではあるまい。
松屋が至高
私にとってのベスト牛丼屋とはどこか?



答えを先に言ってしまうと、松屋がベストだ!
私にとって、牛丼屋といえば松屋なのである。
まずは松屋と私との出会いのエピソードを語っていこう。
松屋との出会い
実は、私が人生で初めて牛丼を食べたのは意外と遅く、大学受験に失敗した浪人時代だった。
浪人生として、予備校のある町に初めて降り立った十代終盤のあの日。
昼飯をどこで食べようかとなったとき、予備校の近くにあったのが、下記の3つの店だった。
- ファミリーマート
- マクドナルド
- 松屋
ファミリーマートとマクドナルドは入店のハードルが低く、小学生の頃から何度も行ったことがあった。
しかし、松屋は一度も入ったことがなかった。
これから始まる浪人生活、ファミリーマートとマクドナルドだけでは昼食のローテーションが単調になってしまう。



最悪、店員に顔を覚えられてしまう可能性も高く、めちゃくちゃ恥ずかしい!
ローテーションに松屋を組み込むのは、喫緊の課題と言ってよかった。
陰キャは躊躇する生き物
浪人時代を彩る昼食ローテーションに松屋を組み込まねばならない!
しかし私は究極の陰キャであり、足を踏み入れたことのない店に入るのを激しく躊躇するタイプである。
食券を買うタイプなのか? 店員に口頭で注文をするタイプなのか?
いきなり席についていいのか? 店員が声をかけてくれるのか?



牛丼にたどり着くまでの工程がわからないというだけで、ハードルが無限に高くなっちゃうんだよね。
結果、めんどくさくなって行き慣れたチェーン店に逃げる、というのがいつものパターンだ。
しかし、浪人時代の私の傍らには戦友と呼べる人物がいたのである。
地元の友人であり、同じ高校に進学し、仲良く大学受験に失敗し、同じ予備校に通うことになった人物だ。
ここでは仮に戦友Aとでも呼んでおこう。
二人いれば、初めての店に入ることへの抵抗は一気に下がる。
上記のような恥をかく状況に陥ったとしても、一人でその恥を引き受けるのと、二人で分かち合えるのとでは、心理的ダメージがまるで違うのだ。
言ってみれば、恥のかき分けである。
というわけで、私は戦友Aとともに松屋に入店した。


当時の松屋は、牛めしの並が290円という破格の値段だったのだが、これがうまかった。



戦友Aも「衝撃的にうまかった」と言っていたよ。
毎日これで良くないか? と思ってしまうほどだった。
浪人時代の一年間で、100回弱は行っているかもしれない。
いつも松屋がそばにあった
結局、松屋の牛めしを初めて食べたこの日の感動が尾を引いて、私のなかでは「牛丼屋といえば松屋」という認識が完成した。
なぜかわからないが、合格した大学の周辺に一番近い牛丼屋も松屋だったし、そのとき住んでいた家の最寄り駅にあったのも松屋だった。
これまでの人生で数百回は牛丼屋に行っているが、体感ではその9割が松屋である。



私のそばにはいつも松屋があったんだ。
あと、松屋は店舗で食べるとき限定で味噌汁がついてくるのも良いんだよね。
ベスト牛丼屋論争の答え
ここで、「ベスト牛丼屋論争」の答えについて、自説を開陳しておこう。
わりと確固たる自信を持って、私はこの自説を高く評価している。
人生で最初に行った牛丼屋が、その人にとってのベスト牛丼屋になるのではないか。



私の場合、それが松屋だったというわけさ!
やはり最初の感動というのは強い。
異論は認める。
陰キャの救世主「食券システム」


私がとりわけ松屋を推す理由として、注文方法が食券システムであることが挙げられる。
券売機で食券を買って店員に渡すだけで牛丼を食べられるという、極めてシンプルな仕組みである。
この食券システムは、店員とほとんど会話することなく食事にありつけるので、私のような生粋の陰キャにとっては非常にありがたい。
最近では、食券を購入した瞬間に注文内容が店員に伝わるようになり、よりスピーディに料理が提供されるようになった。
文明の進歩である。
食券のワナ
すでに見てきたように、食券システムとは陰キャの救世主的なすばらしい仕組みである。
しかし、食券システムに慣れすぎると、そこには思いがけないワナが待ち受けている。
苦い思い出と言い換えてもいいかもしれない。
10年以上前、仕事の関係でとある駅に降り立ち、昼食に牛丼が食べたくなった。
ところが、その駅の周辺には行き慣れた松屋がなく、ほとんど利用したことのない吉野家に入らざるを得なかった。


吉野家の牛丼の味は、すこぶる良かったように思う。
しかし、吉野家は食券制を導入しておらず、店員に口頭で注文し、食事後に会計をするスタイルだった。



陰キャには苦しい、コミュニケーション強要型のシステムです。
注文自体は、食べたいものを伝えるだけなので、陰キャの代表選手である私でも問題なく遂行できた。
問題は、会計である。
私は、会計をせずに退店しようとしてしまったのだ。
先払い制の松屋スタイルに慣れすぎていたため、後払い制であることを失念していたのである。
「お客さん!!お会計!!!」
当然の帰結である。
吉野家の店員さんから見れば、私は完全に食い逃げ野郎なのだ。



信じてくれっ。私は食い逃げをするつもりは微塵もなかったんだ。
私は本気で、今いる場所が松屋だと思い込んでいたのである。
結果的に、無事に会計を済ませ、事なきを得たわけだが、とてつもなく恥ずかしい事件だった。
この件に関しては、吉野家側に一切の落ち度はなく、全面的に私が悪い。
しかし、この思い出があまりに苦すぎて、この事件以来、私は吉野家に足を踏み入れることができていない。
20年経っても松屋が好き


初めて牛丼を食べてから20年以上が経ったが、相変わらず私は松屋に通い続けている。



成長したのは年齢と腹回りくらいで、食の好みはほとんど進歩していません。
松屋のメニューに彗星のごとく登場したネギたま牛めしは最高だし、モーニングのソーセージエッグ定食は安くてうまく、給料日前の心をやさしく潤してくれる。
松屋は、若い頃は浪人生活の空腹を満たしてくれ、今では中年の財布と胃袋を支えてくれているわけで、考えてみればずいぶんと長い付き合いである。
そんなことを考えながら、今日も私は何食わぬ顔で松屋の券売機の前に立つのである。
