伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』|スパイと会社員が交差する不思議な物語

マイクロスパイ・アンサンブル

伊坂幸太郎の小説『マイクロスパイ・アンサンブル』を読んだので、ネタバレなしで感想を書いていく。

バカリレ

私は伊坂幸太郎の小説がかなり好きなのだ。

本作も例に漏れず、私の好みにジャストミートである。

読後には、伊坂幸太郎の「うまさ」にかなりの満足感を得ることができた。

派手な仕掛けや大仰なテーマを前面に押し出すタイプの作品ではない。

けれど、細部に施された伏線が、後半に差し掛かるほどじわじわと効いてくる。

その過程の味わいこそが、この小説のいちばんの魅力だと思う。

本作はこんな人におすすめ!
  • 伊坂幸太郎の小説が好きで、「いつもの感じ」に安心したい人
  • 伊坂作品は初めてだけど、複雑すぎない一冊から入ってみたい人
  • 日常と非日常が、静かに混ざり合う物語が好きな人
  • 複数の視点が、いつの間にかつながっていく構成に弱い人
  • 伏線が「あ、そういうことか」とジワジワ効いてくる小説を読みたい人
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リアルイベントと小説が連動する試み

野外ライブ会場のセットと夕焼け空

もともと本作の出発点は、福島県猪苗代湖で開催される音楽とアートのイベント「オハラ☆ブレイク」だったらしい。

イベントで配布される小冊子に掲載された短編が、本作の一編目というわけだ。

一編で一年進む物語

「オハラ☆ブレイク」は毎年行われるため、短編もその都度書き足され、結果として七年にわたる連作短編になった。

バカリレ

小説としては少し変わった成り立ちですね。

その事情がそのまま小説の構造に組み込まれており、物語は一編進むごとに一年ずつ時間が経過していく。

「一編で一年しか進まない」という制約を、物足りなさではなく味わいに変えているあたりが、いかにも伊坂幸太郎らしい。

その一編一編も、ある時期のある出来事だけを取り出して描いているので、その他の時期については不明のままだ。

本作は、読者に見えない余白の部分を想像させるのが抜群にうまい

リアルタイムで進む物語を目で追いながら、同時に「過去一年ぶんの重みを味わう」ような、不思議な距離感を覚える。

互いの近況をほとんど知らない人同士が、唯一のやり取りである年賀状で一年ぶんの情報を一気に更新するような感じだ。

バカリレ

まさに「不思議な距離感」という表現がしっくりくるんだよ。

大きくかけ離れた二つの視点

木を見上げている

本作の特徴として、下記二つの視点を行き来しながら進んでいくことが挙げられる。

  • 猪苗代湖周辺に存在する「敵の基地」に潜入するスパイの物語
  • 大学時代の失恋を引きずりながら生きている、冴えない会社員の物語

複数の視点が交互に描かれるのは伊坂作品ではおなじみだが、本作がおもしろいのは、この二つがあまりにも噛み合わなさそうに見える点にある。

スパイと一般会社員。

ジャンルもテンションも、生きている世界もまるで違う。

共通しているのは「舞台が猪苗代湖の周辺である」という一点のみ。

読み始めの段階では、正直なところ「二つの物語を同時に読む必要性」をまったく感じられない

その違和感が、独特の読み心地を生み出している。

もちろん、「どこかで二つの物語が交差するのだろう」という予感はある。

バカリレ

そうじゃないと、連作短編として成立しないからね。

ただ、その交点があまりにもぼんやりとしすぎている。

「いつリンクするのか」「本当につながるのか」という期待と不安を同時に抱かせる。

このあたりのバランス感覚こそが、伊坂幸太郎の「うまさ」なのだろう。

あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが、読み進めるにつれて少しずつ世界の輪郭が見えてくる感覚はかなり心地いい。

仕組みが理解できた瞬間、「あれもこれも全部伏線だったのか」と感心させられるタイプの作品だ。

現実に、ほんの少しだけ混じる非現実

猪苗代湖を望む

私は、完全に現実から切り離されたファンタジー作品は、正直あまり好みではない。

世界観を理解するために大量の設定を頭に入れなければならない物語に、どうしても身構えてしまうのだ。

その点、本作はあくまで現実世界がベースにあり、そこにほんの少しだけスパイス的に非現実が混じり込んでいる。

わかりやすさとユニークな世界観が、きれいに両立している絶妙なバランスだ。

日常世界の延長線上に、少しだけ不思議な世界が顔を出す。

バカリレ

そういう違和感やズレを楽しめる人は、きっと本作も楽しめますよ。

派手さはないかもしれない。

でも、読み終えたあとに「計算された一冊だったな」と思わせてくれる。

そんな静かな満足感を与えてくれる小説だった。

まとめ

夕暮れの猪苗代湖

伊坂幸太郎の小説を読み慣れている人なら、きっと「ああ、いつもの感じだ」と安心感を得られるだろう。

初めて読む人は、伊坂独特の語り口に最初は戸惑うかもしれないが、50ページくらいまでくれば、スラスラと読み進められるようになるはずだ。

本作は、複雑な設定で読者の頭を混乱させてくるような物語ではない。

二つの物語はどちらも、特に難しい展開を迎えるわけでもない。

「なぜこの二つの物語が並行して語られているのか」というのが本作最大の謎なのである。

伊坂の持ち味である「複数視点を切り替えながら進む展開」自体が謎であるという趣向と言っていい。

その交点がいつ訪れるのか。

どのような形で訪れるのか。

バカリレ

二つの物語が交わるポイントを楽しみに、ワクワクしながら読み進めてくださいね。

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